2023.12.27
破断チル層の原因と対策
概要
ダイカスト特有の困った不良のひとつである破断チル層。欠け不良、鋳物強度低下、鋳巣の誘起など、その負の影響は多岐にわたります。そんな破断チル層に関して、生成原因、デメリット、対策、そして歴史までわかりやすく説明します。
1. 破断チル層とは
破断チル層とは、ダイカスト製品内部に混入した凝固片が欠陥として作用する鋳造不良です。
これが発生すると鋳物強度が著しく低下します。また、破断チル層によって鋳物製品部が欠ける不良の発生や鋳巣を誘起させる原因にもなります。破断チル層はないにこしたことはありません。
破断チル層はスリーブ内壁で生成され、射出時に引き剥がされて鋳物内部に混入します。イメージしやすいように破断チル層の生成メカニズムを下図に表してみました。これはコールドチャンバーダイカストという方法で、日本ではこれを意識せずにダイカストと呼びます。スリーブは鉄でできており、加温してもせいぜい200〜300℃程度です。そこに650〜700℃程度の溶湯を注ぐわけですから、スリーブ内壁近傍はアルミは瞬時に凝固します。この状態で射出しますので凝固した層が鋳物内部に混入します。言い換えれば、ダイカストは完全な液体状態で射出されているわけではなく、固体と液体が混ざって射出されていることになります。
「固まった状態で射出成形してるってマジ?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、マジ(事実)です。
破断チル層は、鋳巣のように目に見える欠陥ではありません。また、一般的な産業用CTでは空隙がない、もしくは小さいため検出できません。したがって、工程内での非破壊検査が困難です。破断チル層の判定は、破壊検査であるマクロ組織ないしミクロ組織の観察によって判断されます。上の写真が破断チル層のマクロ組織、下の写真がミクロ組織になります。ミクロ組織が異なっていることがわかるかと思います。
2. 破断チル層発生によるデメリット
- 著しく製品強度が低下する
- 機械加工時に製品に欠けが生じる
- 鋳巣を誘起する
- 製品保証が難しい(工程内検査が困難)
さまざまなデメリットが破断チル層には存在しますが、クリティカルに問題となるのは破断チル層の発生により鋳物の強度が著しく低下することです。
「ダイカスト製品が使用中に割れた!」
というのは実はよくきく話ではあるのですが、品質問題となりますので深刻です。
では、なぜ破断チル層が生成されると強度が低下するかを説明します。図は破断チル層と強度の関係を示したものです1)。破断チル層が増えるとUTS(最高引張強さ)が下がることがわかるかと思います。
上述の繰り返しとなりますが、破断チル層と正常な組織の間には目にみえる空隙はありません。つまり物理的には結合していません(破断チル層起点の鋳巣も存在します)。このため破断チル層近傍には応力集中が生じやすくなりますので、僅かな荷重で破壊に至ることになります。
3. 破断チル層の一般的な対策
破断チル層は、スリーブ内壁で生成した凝固片が鋳物(ダイカスト)に混入することで生成します。言い換えれば、スリーブ内で凝固片を生成させなければ破断チル層は生成しません。そのため、以下の対策が有効です。
- スリーブを保温できるタイプに変更する
- 粉体スリーブ潤滑剤を使用する
- スリーブ充填率をあげる
- スリーブ内で凝固する前に射出する
チル層(学術的にはチル層という呼称は間違いです。急冷された柱状晶と呼称することが妥当です。)の生成を抑えられれば良いことは自明です。したがって、上記のいずれか、もしくは複合が破断チル層抑制に有効です。
しかし実際に対策しようとすると、想像よりも大きな変更になります。工程変更って大変ですよね。このため、対策の判断に迷われているエンジニアが多いのも事実です。ただ、破断チル層にはデメリットしかありませんので、適切に対策していただけると幸いです。
4. 破断チル層のネーミングと英語Cold Flake
破断チル層の存在をみつけて報告したのは元豊田中央研究所の岩堀氏だと言われています。何度か岩堀氏の講演を聴いて、破断チル層のルーツというか名づけ方法がおもしろかったので紹介します。
この破断チル層という鋳造不良がみつかるまでは、当然ながらその現象に名前はないわけです。学術の世界では、初めに見つけた人にネーミングライツが与えられることがあります。そこで氏はネーミングをどうするか迷ったそうです。
「海外で発表して“Iwahori Structure(岩堀ストラクチャ)”はどうかと言われた。しかし、不良がでるたびにIwahoriが出た、Iwahoriが出た、と言われるのはかなり不名誉なのでその名称はつけなかった。」
たしかにその通りですよね。破断チル層にはメリットは一切ありませんので、理解できます。
ちなみに日本では破断チル層とよばれていますが、英語圏ではCold Flakeとよんでいます。岩堀氏が初期に英訳したのがAbnormal Structure2)なんですが、Cold Flakeの方がムダにかっこいい気がします。
「またCold Flakeか」
というとちょっとおしゃれにきこえるかもしれません、怒られますが・・・
5. おわりに
破断チル層の生成原因、デメリット、対策、そして歴史まで解説してみました。すこし難解な部分もあったかと思いますが、ご理解いただけたでしょうか。
破断チル層とは、ダイカストに混入した凝固片が欠陥として作用する鋳造不良です。原理としては理解しやすいのですが、完全な対策となるとなかなか難しい不良といえます。
破断チル層のミクロ組織は下の画像ように色々なものが存在します。判断に迷われることがあるかもしれません。その際にはお問い合わせいただければ幸いです。
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