2023.04.04

アルミニウム合金鋳物のフラックス処理

概要

良いアルミニウム合金鋳物を作るにはフラックス処理が必要です。フラックス処理は溶湯処理の一種であり、鋳物に要求される特性に合わせて処理されます。このページではフラックス処理の目的、フラックスという白い粉の成分、原理、そして実際の処理について説明します。

アルミニウム合金鋳物向けフラックス

1. アルミニウム合金鋳物におけるフラックス処理の目的

フラックス処理は溶湯処理のひとつです。

鋳造は「溶かす」「流す」「固める」の3要素が重要です。これらの一つでも欠けると良い鋳物は作れません。フラックスは「溶かす」工程、つまり溶解において重要な役割を担います。フラックス処理の目的は以下のようになります。

  • 酸化物除去(介在物除去)
  • 脱ガス
  • 酸化防止
  • 不純物除去(脱マグネシウム/脱カルシウム)
  • 改良元素添加
  • 炉壁清掃

フラックス処理は、ハードスポットを代表とする酸化物除去を目的とすることが多いです。したがって、酸化物除去を目的とした清掃用フラックスについて次項以降に説明します。

2. フラックスの成分

フラックスは溶湯処理に用いられる薬剤です。和訳すると融剤になりますが、フラックスといった方が通りがいいかもしれません。

フラックスは簡単に言えば「塩」です。一般的にはNaCl(食卓塩)とKClを主体とし、フッ化物が混合されています。
下図はNaClとKClの状態図を示しています1)。酸化物を付着させるには、フラックスは液体である必要があります。そのためNaClとKClは、溶湯の液相線(融点)にあわせて配合されます。おおよそ50:50ぐらいと考えていただいてOKです。

NaClとKClの状態図

酸化物除去の有効成分にフッ化物があります。塩化物同様に重要な成分になります。代表的なフッ化物を以下に示します。合金、溶解温度に合わせてメーカーからフラックスが販売されています。

  • フッ化アルミニウム(NaF)
  • 氷晶石(Na3AlF6)
  • フッ化カルシウム(CaF2)
  • ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6)

3. 清掃用フラックス処理の原理

この項では清掃用フラックスの原理について紹介します。

ダイカスト工程において特に見られるのが「溶湯の滝」です。下図は溶湯の滝の模式図になります。アルミニウムはとても活性な金属ですが、その強固な酸化皮膜により溶湯状態で発火するようなことはありません。言い換えれば、新生面ができれば酸化物となります。ですので配湯でみられるような溶湯の滝は大量の酸化皮膜が生成されていることになります。

溶湯の滝の模式図

アルミニウム合金溶湯のフラックス処理はとても簡単です。フラックスの手順は以下のようになります。模式図とあわせてご確認いただけると理解しやすいかと思います。

01

散布

フラックスを散布します。

02

攪拌&分断

溶湯とフラックスを攪拌し、フッ化物(フラックス)を酸化物に吸着させます。

03

スラグオフ

溶湯から分離されたスラグを系外へ排出します。

フラックスの散布

溶湯とフラックスの攪拌

スラグオフ

ここから少し難しい話になります。

フラックスは塩化物とフッ化物の混合物です。フラックスと酸化物の間に生じる界面張力は、溶湯中の酸化物よりも低くなります。これはどういうことかというと、フラックスが酸化物に優先的に吸着することになります(これを工学用語で「濡れる」と言います)。こうなるとフラックスは酸化物を覆い、酸化物とフッ化物の混合相を形成します。さらに攪拌、局所的な発熱により、酸化物は分断されます。この際に酸化物が捕捉しているメタル分は溶湯へ戻ることになります。これらの混合相はアルミニウム合金溶湯の比重よりも軽いため、浮上します。これによりメタル含有量の低いスラグとなり、それが溶湯表面に浮上することになるため、酸化物を系外へ排出することが可能となります。

年配の方とフラックスの話をすると
「フラックス処理によってテルミット反応が〜」
ということを言われますが間違いです。テルミット反応は以下に示すアルミニウムと酸化鉄の発熱反応をさします。溶湯に触れる治具に鉄製の治具を使いますが、酸化物、フッ化物のエネルギーの方がはるかに大きいのでテルミット反応は無視できるレベルといっていいでしょう。そういう話になりましたら、そっと修正してあげてください。

8Al + 3Fe3O4 → 9Fe + 4Al2O3 + 702500 cal

4. 実際のフラックス処理

以下の写真はフラックス処理後のアルミニウム合金溶湯表面の写真です。このようなドライな滓をドライドロスといい、フラックス処理としてはGoodです。

フラックス処理により、酸化物は細かく分断、フラックスにより捕捉され、メタルは溶湯へかえされます。混合物中にはメタルが少なくなりますので、ドロスはドライ状態になっています(これでもメタルはまだまだ残っています)。

フラックス処理後のアルミニウム合金溶湯表面に浮かぶドライドロス

フラックス処理はハードスポット不良に効果的です。以下リンクはハードスポットに関する特集記事です。ハードスポットにお困りの方、なぜハードスポットが生じるか気になる方、ぜひご覧ください。

5. まとめ

アルミニウム合金溶湯のフラックス処理について概説してみました。なんとなくでよいのでフラックスをご理解いただければ幸いです。怪しい白い粉ではなく、アルミニウム鋳物にとって重要な薬剤、それがフラックスです。
フラックス処理というと、アルミニウムダイカスト、アルミニウム鋳物、いずれも酸化物除去を目的とすることが多いように思います。本ページでは清掃用フラックスについて原理を交えて解説しています。ただ、やってみてその良し悪しを判断するのはなかなか難しかったりします。そうした場合はご相談いただければ幸いです。
マテリアルデザインでは、貴社に適した溶湯処理のご提案をいたします。お問い合わせ、お待ちしています。

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出典
1) Benedikt Kirchebne, et al., Materials, 14(2021), 4072

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