2023.12.29

アルミニウム合金の成分分析とその種類

概要

材料の化学組成(材料成分)は、鋳物の品質に大きく影響します。そのため日本のみならず海外においても、材料成分は材料規格に定められています。極めて重要な品質保証項目である材料成分の”分析”は、同じく重要といえるでしょう。本ページでは、アルミニウム合金鋳物、ダイカストに用いられている成分分析方法について解説します。

発光分光分析

1. 鋳物及びダイカストで使われる成分分析方法

いわゆるアルミニウム合金の成分分析には、発光分光分析が用いられます。
したがって、このページでは発光分光分析について詳しく説明します。

実は、材料の成分分析は、湿式分析、発光分光、原子発光、蛍光X線、イオンクロマトグラフなどなど、日常生活ではまずお目にかからない方法がたくさんあります。しかしながら、アルミニウム鋳物及びダイカストで使われている成分分析は、用途に合わせて3つです。したがって、発光分光分析に加え、湿式分析、SEM-EDXを覚えていただければこの業界では十分です。

1.1 発光分光分析

材料の平均組成を分析する場合に用いられます。簡単にいえば、図面に記載されている材料種の判定に使われます。
「材料成分結果を提出して」
と言われたら、これを出せと言われていると思ってください。一度の分析ですべての元素を測定できますので、工場の品質保証ではこれが使われています。
注意すべき点は、発光分光分析でえられた数値は絶対値ではない、ということです。発光分光分析は成分が既知の標準試料との比較分析になりますので、その理解が必要です。

1.2 湿式分析

湿式分析は、溶液中で化学反応を利用し、成分量を測定する一連の分析手法をさします。化学量論に基づく分析手法を利用し、成分量の絶対値を求める場合に用いられます。
発光分光分析に用いられる標準試料の成分分析には、湿式分析が用いられています。発光分光分析は湿式分析がベースとなりますので、極めて重要な分析手法といえます。
測定に時間がかかりますので、鋳造工場において材料成分の工程保証で使われることはありません。

1.3 SEM-EDS

SEM-EDSは、局所的な材料成分を分析する場合に用いられます。局所的な材料成分分析になりますので、材料の平均組成を求めることには向きません。ダイカスト業界では、ハードスポットや異物の分析に使われることが多いです。

SEM-EDSとほぼ同義として呼称されるものにSEM-EDXがあります。EDXはEnergy Dispersive X-ray(エネルギー分散型X線)、EDSはEnergy Dispersive Spectrometer(エネルギー分散型分光器)の略になります。SEM-EDXは分析方法、SEM-EDSは分析手法を表すという考え方です。本来であればEDXS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:エネルギー分散型X線分析)というのが正しいのでしょうが、EDSでもEDXでも意味は通じますので、どちらの名称を使っていただいてもよいと思います。

2. 発光分析の原理

発光分光分析は
「励起されたサンプルから放出される光学スペクトルを分析する方法」
なのですが、こうやって説明すると途端に難しくきこえます。ひとまずは、光の強度で成分量を計測する方法と覚えていただければひとまずOKです。

その名前が表すように、発光分光分析は発光→分光→分析の順に分析されます。発光(サンプルの励起)の種類には火花、プラズマ、炎などいくつかの手段がありますが、この業界の発光分光分析(OES)ではアーク放電が採用されています。

下図は発光分光分析の模式図を示しています。スパークエンクロージャにアルゴンを満たし、高電流がサンプルに印加されます。するとスパークチャンバー内でプラズマが生成されます。プラズマ中の高エネルギーの火花はサンプルを蒸発させ、原子はエネルギーを吸収して高いエネルギー状態に移行します。蒸発した後に電子は基底状態に戻り、その際に光子を放出します。これにより複合光が生成されることになります。この複合光を回折格子で分離し、光学室内にスペクトルが生成されます。
各合金元素の成分量(濃度)を知る方法はとてもシンプルです。各元素の波長とその放出の強度を把握するだけです。どういうことかというと、元素毎に特定のスペクトルをもっていますので、波長に合わせて光の強度を計測して、それを成分量が既知である標準試料と比較分析する、ということになります。組成の異なる標準試料を2つ以上計測することで、発光強度と濃度の関係が表せます。大雑把にいえばこれを検量線といい、発光分光分析機はデータベースとして検量線をもっています。未知の試料を計測する場合は、このデータベースにあわせて成分量(濃度)を計算していることになります。発光強度が高ければ元素濃度が高くなります、その逆も然りです。光の検出には、PMT(フォトマルとか光電子倍増管といわれてます)、CCD、最近ではCMOSが使われるようになってきました。

発光分光分析の模式図

3. 発光分析装置メーカー

アルミニウム合金鋳物、ダイカストメーカーで扱われている発光分析装置は以下4社がメジャーです。SPECTROはAMETEK、ARLはThermo Fisherの傘下になっています。

  • 島津製作所(日本)
  • SPECTRO(ドイツ)
  • ARL(アメリカ)
  • OBLF(ドイツ)

おすすめを挙げると角がたつのでこの場では申し上げられませんが、繰り返し精度、分析精度、ランニングコストを考えると1択です。分析装置及び分析元素の選定にお困りでしたらお問い合わせいただければ幸いです。

4. 標準試料

標準試料は合金成分の絶対値が示されたものです。写真のような円柱状のサンプル形状をしています。写真は日本軽金属の標準試料です。

標準試料

見積をとられると「そんなに高いの?」と思われるかもしれませんが、値段としては妥当か安いぐらいです。各元素の湿式分析をおこなってもらうことを考えれば、標準試料は湿式分析結果がついてきますので安いものです。日本では、Alcoaからも購入が可能です。日本軽金属(日軽エムシーアルミ)はインゴットのユーザーじゃないと売ってくれないかもしれません。

5. 分析用鋳型とテストピース

成分分析において、成分分析機はもちろんのこと、そのテストピースも重要になります。鋳物は材料の偏析が生じますので、決められた条件下において成分分析用テストピースが作られることが推奨されます。簡単にみえますが、実は大事な工程です。
写真左(スマホでは上)は成分分析用の鋳型、写真右(スマホでは下)は成分分析用テストピースです。この形状の成分分析用テストピースはキノコ、ペシネー型テストピースと呼ばれています。キノコは見たまんま、ペシネーはフランスの非鉄製造コングロマリットのペシネー社(現在はリオティント傘下)が考案したものと思われます。
成分分析ひとつとっても実に奥深い世界が待っています。

成分分析用テストピースの鋳型

成分分析用テストピース

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