2023.03.14

鋳造用アルミニウム合金の基礎と種類

概要

鋳造に使われるアルミニウムのほとんどは、アルミニウムとシリコンの合金です。元素記号を用いてAl-Si 合金と略されることもあります。
柔らかそうなアルミニウムと固そうなシリコン。これら性質の異なる元素をなぜ混ぜたのか。そのルーツは実はよくわかっていませんが、経験的に鋳造にとって都合がよかったようです。これまでの研究により、どうやら共晶(きょうしょう)凝固という固まり方が鋳造の本質にあたるのですが、専門用語が入ってくると難しいですよね。
そんなわかり難い鋳造用アルミニウム合金について、なるべくやさしく説明します。これから鋳造エンジニアを志す方にご理解いただけるとうれしいです。

純アルミニウムのインゴット

金属シリコン

1. 鋳造用アルミニウム合金の基本【Al-7%Si合金】

鋳造用アルミニウム合金の基本はAl-7%Si合金です。これを例にあげて考えてみます。

Al-7%Siが示す意味は、意訳すると93%のAlと7%のSiの合金ということになります(厳密には7%のSiと残部はAlを主成分とする、という意味です)。一般的には重量比で考えますので、%だけ書いてあれば重量比と考えてください。

もう少しマニアックにいきましょう。
写真はAl-7%Si合金のミクロ組織といわれるものです。鋳造品を研磨して光学顕微鏡で観察すると、このような不思議な模様がみられます。個人的にはうっとりするぐらい美しいと感じます。絶対的なルールに則り、その通りに結晶を形成する。これ以上の形態美はないように思います。さて、なんだかこのままではよくわかりませんので解説しますと、この合金は2つの結晶が合わさっただけのものです。何も恐れることはありません。結晶は「あるふぁあるみ(α-Al)」という相と「共晶」という相の2つだけです。文献を読む際に必ず出てきますので、こちらは覚えていただきたいです。

基本的にはこれに添加して合金を作っていくことになりますので、まずは基礎が大事、ということで基本のAl-7%Si合金をおさえてください。

Al-7%Si合金のミクロ組織

2. Al-Si系状態図と冷却曲線の関係

α-Al、共晶、この2つを覚えていただきました。次はこれらがどうやって形成されるかを考えます。

これを紐解くのが状態図です。ですがこの単語を耳にするととたんに眠くなります。気持ちはわかります。ただ、状態図は料理で例えるならばレシピです。料理人がレシピを知らないのが問題のように、鋳造エンジニアが状態図を知らないのも問題なのです。鋳造エンジニアが知るべき状態図は、共晶系の1 種類のみです。ですのでここは少し我慢していただき、この難解な状態図をみていきましょう。

鋳造用アルミニウム合金の基礎は、前項でもお伝えしたようにAl-7%Si 合金です。図はAl-Siの2元系状態図、右側はそれに対応した熱分析結果の模式図です。この合金は615℃以上では液体です。温度が低下し、T1(615℃)になると初晶α-Al、さらにTE(577℃)になると共晶が晶出します。液体を冷却して一番初めにでてくる結晶だから初晶といいます。実はこれだけです。この図から、結晶が出てくる順番がわかるのです。

Al-Siの2元系状態図と冷却曲線

それでは、さらに深く読み込んでみましょう。

T1(615℃)で初晶α-Alが晶出します。Al とはいわずにα-Alというのは、純粋なAlではないからです。初晶α-AlのT1でのSi濃度はa,T2でのSi 濃度はbと、温度によって濃度がかわります。さらに温度が低下し、577℃までは初晶α-Alが成⻑します。α-Al が成⻑するということは,残った液相のSiは濃化することになります。温度の低下とともに残った残留液相は濃化し、TE(577℃)で 12.6%となった際に共晶という2つの相からなる結晶が晶出します。このときの共晶は、c 組成でのAlとほぼSiの2つの相が共に成⻑します。この共晶反応が生じている間は、温度は一定となります(冷却曲線iiのTE部)。状態図のみを読むと577℃で共晶が一瞬のうちに完了するように勘違いしそうですが、実際には共晶凝固には時間が必要です。

ちなみに合金を扱う場合、厳密には融点とは言いません。なぜかというと合金の組成によって融点がかわるため、液相線という言葉を使うのが正しいのです。

基本のAl-7%Si合金についてご理解いただけましたか?
かなりマニアックで難しいですが、ご自身で状態図を書いていただき、線をなぞってもらうとわかりやすいかと思います。まずは状態図に興味をもっていただければ幸いです。

この基本となるAl-Si合金に強度、製造性などを担保するために様々な元素が添加されます(生まれが異なる合金もいます)。基礎を理解した上でしか実用レベルに足る材料は生み出せません。したがって、合金の理解には必ず状態図が必要になります。

次はJISで規定されている合金の種類について解説します。

3. 鋳造用アルミニム合金の種類

合金構成ごとにJISと開発合金を表に記載しました。鋳造用合金とダイカスト合金をそれぞれ並べています。

製品の要求特性ごとにさまざまな合金系がありますが、Al-SiAl-Si-MgAl-Si-Cuを覚えていただければいいと思います。もっとも多く使われているのが、Al-Si-Cuです。その代表例がAC4B、ADC12となります。強度が高くて鋳造性が良いバランスの良い合金、と言われますが、どちらかというとリサイクルし易くてコストパフォーマンスに優れる、が正しいです。これらの合金は積極的に応力が印加される強度部品には適しません。強度が必要な部品には、AC4CH、ADC3、Silafont-36などのAl-Si-Mg系、Al-Si-Mg-Mn系の合金の採用をおすすめします。

この中にAl-Cu系がありますので、「Al-Siが基本じゃないんかい」と怒られそうですが間違いではありません。使われている合金のほとんどがAl-Siを主体としています。AC2Bが自動車によく使われていますが、Alの次に多い元素はSi(Cuは2.0~4.0%、Siは5.0~7.0%)となっています。

さて、なんとなく鋳造用アルミニウム合金についてご理解いただけたでしょうか。応用は基礎の上に成り立ちます。ぜひこの機会に勉強してみてください!

合金組成 鋳造用合金名 ダイカスト用合金名
Al-Cu AC1B -
Al-Cu-Si AC2A, AC2B -
Al-Si AC3A ADC1
Al-Si-Mg AC4A, AC4C, AC4CH ADC3
Al-Si-Cu AC4B ADC10, ADC10Z, ADC12, ADC12Z
Al-Si-Cu-Mg AC4D -
Al-Cu-Ni-Mg AC5A -
Al-Mg AC7A ADC5, ADC6
Al-Si-Ni-Cu-Mg AC8A, AC8B, AC8C -
Al-Si-Cu-Mg-Ni AC9A, AC9B -
Al-Si-Cu-Mg - ADC14
Al-Si-Mg-Mn - Silafont-36
Al-Mg-Si-Mn - Magsimal-59

4. アルミニム合金の国内及び海外規格

工業において規格化はメリットがあります。国際的な取引、効率化、エンドユーザー保護など、規格化の恩恵は計り知れません。

アルミニウム材料においても同様に規格が設けられています。国際標準化機構(ISO)をはじめ、各国においてアルミニウム材料の規格化がされています。代表的な規格について以下に示します。

  • 日本:JIS H5302(アルミニウム合金ダイカスト)、JIS H 5202(アルミニウム合金鋳物)
  • アメリカ:AA合金表
  • ドイツ:DIN 1725
  • 英国:BS 1490
  • フランス:NF-A 57-703(アルミニウム合金ダイカスト)、NF-A 57-702(アルミニウム合金鋳物)
  • ISO:ISO 3522

アジア圏にもその国々に材料規格があるかもしれませんが、実はよくわかっていません。また、企業ごとに材料規格を設けている場合もあります。守秘があるので書けませんが、webで調べても詳細がでてこないのが企業独自の材料規格の場合が多いです。

ちなみにJISは2019年7月1日に、これまでの日本工業規格から日本産業規格にかわっています1)
変更当初はものすごく違和感がありましたが、慣れるもので今では気になりません。

製品規格と地金(インゴット)規格を別々に規定しているのは、日本、アメリカ、ドイツになります。フランス、英国、国際標準化機構は製品と地金の規格を明確に区別していません。
別々に規定しているので
「AD12.1とADC12って何が違うの?」
というご質問をよくいただきます。
地金規格のAD12.1、製品規格のADC12という違いの他に少々成分も異なります。詳細はこちらをご覧ください。

5. 鋳造用及びダイカスト用アルミニム合金の詳細一覧

ここまで鋳造用アルミニウム合金の基礎について記述しました。
以下リンク先は、代表的な鋳造用アルミニウム合金の材質と特性を示しています。これら合金を確認いただければ、おおよそのアルミニウム鋳造材料を網羅することになります。ぜひご覧ください。

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