2023.03.04

ADC14(B390)の材質と特徴

概要

ADC14とは、JISで規定されているダイカスト用アルミニウム合金です。Siを多く含んだ過共晶型の合金であり、耐摩耗性を要求する自動車分野に多く適用されています。溶解温度が共晶合金と比較して高いため鋳造性が悪いと言われがちですが、Siの凝固潜熱の影響から湯流れは良好です。本記事では、ちょっと変わったアルミニウム合金ADC14の材質と特徴について詳しく紹介します。

ADC14のインゴット

1. 過共晶Al-Si合金の歴史

過共晶Al-Si合金が実用化されたのは、今から半世紀前の1970年と言われています1)

初出はChevrolet(GM) Vegaという自動車。直列4気筒オールアルミニウム合金製のエンジンブロックは業界に多大な影響を与えたことでしょう。この証左として、BMW、ポルシェ、ダイムラーなどがその後、過共晶合金を採用しています。Reynolds Metals, Sealed Power Corp、GMにより開発されたことから、材料、工法、製品設計などなど、大きな開発プロジェクトだったことが想像できます。ただ、wikiを見る限りは商業的には失敗だったそうです2)。技術はよくても売れない、あるあるですね。

日本には1990年に行われたJIS H 5302の改訂時に、AA合金のB390.0を参考にしてADC14が規定されました。日本版にアレンジされていますので、ADC14とB390では若干成分が異なります。

ちなみにA390は重力鋳造用、B390がダイカスト用の合金になります。したがって
ADC14 ≠ A390
となりますのでご注意ください。

2. ADC14の化学成分と材質

ADC14はJIS規格で規定される合金です。下表に化学成分を示します3)。比較のためにB390、A390、ADC12の化学成分を併記します。

化学成分, 質量%
合金名 Cu Si Mg Zn Fe Mn Cr Ni Sn Pb Ti Al
ADC14 4.0
~5.0
16.0
~18.0
0.45
~0.65
≦1.5 ≦1.3 ≦0.5 - ≦0.3 ≦0.3 ≦0.2 ≦0.30 other
B390 4.0
~5.0
16.0
~18.0
0.45
~0.65
≦1.5 ≦1.3 ≦0.50 - ≦0.10 - - ≦0.20 other
A390 4.0
~5.0
16.0
~18.0
0.45
~0.65
≦0.10 ≦0.50 ≦0.10 - - - - ≦0.20 other
ADC12 1.5
~3.5
9.6
~12.0
≦0.3 ≦1.0 ≦1.3 ≦0.5 - ≦0.5 ≦0.2 ≦0.2 ≦0.30 other

この合金は耐摩耗性を得るために初晶Siを晶出させる必要があります。このためP(りん)の添加が必要になります。これについては後述します。

3. ADC14の用途

ADC14の用途はずばり耐摩耗性部品です。

例えば、以下のような部品に適用されています。これらはいずれも設計的な要求機能に摺動(しゅうどう)が求められる部品です。

  • ボディシリンダ
  • バルブボディ
  • シフトフォーク

以下の写真は、ヤマハ発動機株式会社が軽金属学会に発表したDiASilシリンダーのカットモデル写真です4)。DiASilは過共晶Al-Si合金のことです。この論文では合金に20%ものSiが含有されています。通常は鋳鉄製のスリーブをシリンダに鋳包み、耐摩耗性を確保しますが、高い耐摩耗性を誇るDiASilを採用することで軽量化を図っています。鋳造の機能アップにより製品設計を変える。ヤマハのすごいところです。

ヤマハ発動機の過共晶Al-Si合金DiASilシリンダー

4. ADC14の機械的性質

以下表にADC14の機械的性質を記載します5)

このデータによると、製品によってかなり強度にばらつきがあります。文献を読んだのですが、鋳造条件、熱処理の有無がわかりませんでした。数値からすると、おそらく熱処理が影響していると考えられます。

合金名 製品名 耐力
MPa
引張強さ
MPa
伸び
%
硬さ
HB
ADC14 シリンダーブロック
クーラーシリンダ
シリンダ
136
171
251
140
200
277
0.5
0.7
0.8
73.4
77.9
76.5

特筆すべきは
「伸び、ないな・・・」
です。
ADC14の特徴は伸びが低いことです。脆性なSiが多く含有していること、プレート状のSiが晶出すること、これらによりものすごく脆いです。ガラスのような材料、というといいすぎかもしれませんが、割と本当です。このため、扱いが難しい材料といえます。
高い耐力と耐摩耗性は魅力的ですが、製品設計がうまくできていないと難しい材料になります。材料スペックのみで選定すると製造面において苦労します・・・

5. ADC14のミクロ組織と材質の関係

材質はミクロ組織によって決まります。ADC14はその特徴的なミクロ組織から、研究対象となることが多くありました。当社代表も実はその一人です6, 7)。なるべく簡単に、そしてわかりやすく説明したいと思います。挫折せずに読み進めてください。

下のミクロ組織はADC14(正確にはB390)をダイカストしたFORD F-150の部品のものです。さすが過共晶合金発祥の地、アメリカです。過共晶合金はめずらしくありません。

ADC14(B390)のミクロ組織

塊状で濃いグレーに見えているものが初晶Siです。その他は共晶(Al-Si)とα-Alで構成されています。

「ん?おかしくない?」

と思う方はするどいです。下図にAl-Si合金の状態図を示します。例えばSiが17%だとすると、初晶はSiです。その後、共晶が晶出して凝固が完了するはずで、α-Al相は平衡状態図上ではでてくるわけがないのです。
しかしながら、Siはファセットという特徴をもっていて、核生成し難いのです。小難しい話になるので割愛しますが、とにかく摩訶不思議なことが過共晶Al-Si合金におきます。

Al-Si合金の状態図

Siの核生成物質はAlPになります。そのためこの合金系には改良元素としてPを添加します。ここでよく以下のようなことを伺います。

  • 「Pが入らない」
  • 「P量が減耗する」
  • 「Si量がばらつく」
  • 「初晶Siフリーゾーンがでる」
  • 「被削性が悪い」

お気持ち、わかります。合金の特性から上記のようなことが鋳造工程が生じます。同様のお悩みがございましたら、問い合わせいただけると幸いです。ご提案できるかと考えます。

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6. まとめ

ADC14(B390)の材質と特徴について、化学成分、用途、機械的性質、ミクロ組織、そして状態図とかなりマニアックに説明しました。

ADC14を簡単に言うなれば、
耐摩耗性は抜群で湯流れいいけど理解が難しい合金!
です。

ただ、Al合金にはあまり持っていない耐摩耗性を持つ優れた合金です。これを製造上で扱えるようになると強い武器になります。言葉と画像だけではなかなか伝わらない部分があるかと思います。本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

出典
1) Nickel Composite Coating, Inc.
2) Wikipedia
3) JIS H5202:2010
4) 山縣裕:軽金属 54, 2004, 298-301
5) 日本ダイカスト協会、日本アルミニウム合金協会:アルミニウム合金ダイカストの実体強度と顕微鏡組織(2003年)
6) 豊田充潤, 森中真行:鋳造工学 88, 2016, 518-523
7) 豊田充潤, 森中真行:鋳造工学 88, 2016, 631-637

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