2023.03.12

テスラのダイカスト用アルミニウム合金

概要

テスラの開発アルミニウム合金はAC4CH(A356)をベースにした高機能材料です。
ギガプレスで製造されるモデルYアンダーボディは、鋳造エンジニアだけでなく、エンドユーザーからも注目を集める技術となっています。ギガプレスに使用される開発アルミニウム合金について、web上の成分分析結果と特許明細から読み解きます。

テスラモデルYアンダーボディ

1. モデルYアンダーボディの成分分析結果

結論を申し上げると
テスラのアンダーボディで使われている合金はAC4CH系をベースにした改良合金です。

下表にMunroさん1)、株式会社大紀アルミニウム工業所2)が調査した成分分析結果を示します。鋳造性と靭性を兼ねそろえた良い合金だと思います。これらの分析の詳細は後述します。

化学成分, 質量%
Cu Si Mg Zn Fe Mn Cr Ni Sn Pb Ti Zr V P Sr Al
Munro 0.790 8.525 0.075 0.020 0.277 0.455 - 0.009 0.004 0.004 0.013 0.005 0.015 - - other
DAIKI 0.78 7.86 0.29 0.01 0.24 0.52 0.01 0.04 0.00 0.00 0.08 - 0.0726 0.0008 0.0223 other

1.1 Sandy Munroさんの成分分析結果

Sandy Munroさんという自動車エンジニアがYouTubeで報告しています1)

Munroさんによると、この材料はAA 386と言われています。恥ずかしながら聞いたことがない合金でしたので、webで調べてみました。どうやらAl-9.5%Si-0.6%Cuの合金を指すようです2, 3)。Sr(ストロンチウム)を分析されていませんが、Munroさんが調査した個体もおそらく添加されているでしょう。

YouTubeを見る限りでは、分析方法は開示されていません。おそらく一般的な固体発光分光分析で合金成分を分析したと思います。鋳造製品は成分の偏析が生じますので、分析部位によって分析誤差が生じます。この分析値は貴重なデータであることに変わりありませんが、ある程度の誤差を持つと考えた方がよさそうです。

1.2 株式会社大紀アルミニウム工業所の成分分析結果

2022日本ダイカスト会議・展示会のダイカスト協会ブースにおいて、アンダーボディの成分分析結果が報告されていました。

株式会社大紀アルミニウム工業所4)にて成分を分析されたようで、こちらの方がMunroさんが分析された結果よりも鋳造メーカー目線で分析されています。Cu、Siが若干高いのは、もしかするとダイカスト製品を直接発光したのかもしれません(あんな大きなものを直接分析かけたとは思えませんが・・・)。Srの分析も当然されています。

ダイカスト会議展示品におけるテスラモデルYアンダーボディの成分分析結果

2. テスラの材料特許明細からわかること

実データも大事ですが、設計思想も大事です。これを補完するのに便利なのが特許明細です。特許はすべてが本当のことが書いてあるとは限りませんので、実データと照らし合わせることが有意義です。

テスラのダイカスト用アルミニウム合金の文献番号はWO 2021/150604となります5)。まだ公開のステータスですので、特許として権利化されていません(2022年10月27日時点)。とはいえ、これをベースに特許として審査されていくわけですから、知りたい情報としては十分です。国際公開日(International Publication Date)は2021年7月29日ですが、優先日(Priority Date)が2020年1月22日となっていますので、別の米国特許があると思われます。興味深いのが発明者(Inventors)の欄です。テスラ社員が発明者として名を連ねており、材料メーカーの方がいません。材料メーカーから引き抜いてきた方が材料設計をしたのか、はたまたテスラ独自で開発したか。どっちでしょうね。

テスラギガプレスの材料特許

明細を意訳すると、テスラのダイカスト用アルミニウム合金は以下を狙っています。

  • 良好な鋳造性
  • 高靭性(高延性)  20°以上の曲げ(3mm厚)
  • 比較的高い耐力  130MPa(3mm厚)
  • 非熱処理
  • 高耐食性

上記を得るための材料成分ですが、従属項として以下3つの成分範囲をあげています。

テスラギガプレスの材料成分

良好な鋳造性を得るために、Siに関わる記述が明細にあります。合金の流動性を得るために6~11%のSiが必要であるが、延性を考慮すると7.5〜8.0%が妥当、といった記述もその通りだと思います。

高靭性を得るためには、析出物制御とSrによる改良処理の記述がありました。Mg2SiやAl2Cuの析出物形成ではなく、AlCuMgSiの形成を狙っている、とありますのでさすがと思いました。AlCuMgSiはMg2Si よりも延性を妨げない、と書かれていたことに理解が追いつかなかったのですが、強度寄りの設計というより靭性寄りの設計となっていますので合金成分の設定は悪くありません。また、Srは延性確保のためにやはり添加されているようです。明確にSr添加を明細に謳っています。その他、FeとMnの相互作用も記述されています。

改良処理について、以下リンク先に詳細説明していますので、ご興味あればご確認ください。

「比較的高い耐力」というのがポイントです。テスラはガチガチの高強度を目指していません。強度が高いほうが強い!と思われがちですが、延性を犠牲にした高強度材ほど弱いものはありません。テスラではCu、Mgの添加量が過剰にいれていないので、この点も明確な狙いがみえます。

明細には非熱処理をポイントにあげていますが、この合金はT5やT6のような熱処理をしても効果を発揮します。耐力と延性はトレードオフの関係にありますから、設計要求として熱処理が不要だったのかもしれません。

鋳造はリブを配置し易いので、製品の形状剛性を確保して応力集中を緩和しているものと思われます。総合的に考えると、車両の主要求特性は強度ではなく剛性であることが読み取れます。

耐食性は自動車用途としてはOK、のように書かれています。ここは耐力、非熱処理実現のために割り切っているように思います。Cuの値が少し高いかな、とは思います。

3. まとめ

テスラモデルYのアンダーボディという部品はアルミニウムダイカストで製造されています。ダイカストは超大型の設備を用いており、彼らのいうギガプレスがそれに該当します。超大きなダイカストマシンの方が話題性に富んでいるので注目されやすいのですが、キーとなるのは実は材料設計(マテリアルデザイン)です。
そんなギガプレスに使われる合金はどのようなものか、少し考えてみました。調査対象は、Sandyさんの成分分析結果と特許明細になります。実物を分解調査しているわけではありませんので、あくまで推測の域をでないことをご了承ください。その上で、テスラのダイカスト用アルミニウム合金をまとめますと以下のようになります。

  1. テスラのダイカスト用アルミニウム合金は、鋳造性を確保しつつ、高靭性、比較的高い耐力、高耐食性をもっている。
  2. 「比較的高い耐力」という材料設計は車体設計には必須の考え方と思われる。
  3. テスラは優秀な材料エンジニアを抱えている。

テスラの合金は、JISでいうところのAC4CHないしAC4CにCuを添加したような合金とも言えます。その昔、これに近い特許を出願したことがあります6)。テスラの特許明細を確認すると、材料設計(マテリアルデザイン)の考え方が似ていて、なつかしく思いました。国を超えても科学は同じ、すこしうれしくなりました。

出典
1) https://youtu.be/053rKZjP-8c
2) 株式会社大紀アルミニウム工業所
3) https://sinotech.com/products/formed-metal-parts/die-castings/
4) https://www.efunda.com/processes/metal_processing/die_casting.cfm
5) 国際特許 WO 2021/150604
6) 特開2016-102246

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