2023.10.26

アルミニウム合金鋳物の改良処理

概要

アルミニウム合金鋳物には、改良処理が施されることがあります。Na(ナトリウム)、Sr(ストロンチウム)、P(りん)、TiB2(チタンボロン)など、いろいろな元素が出てきて少々複雑です。このページでは「共晶Siの改良処理」をメインに、その目的、ミクロ組織について説明します。

アルミニウム合金鋳物の改良処理

1. アルミニウム合金鋳物における改良処理の目的

アルミニウム合金鋳物の改良処理とは、材質の特性を向上させる工程のことです。共晶Siの改良処理には2つの目的があります。

  • 機械的性質の向上
  • 鋳造性の向上

機械的性質の向上は、共晶Siの微細化によってもたらされます。Na、Srなどの改良元素を添加すると共晶Siは板状からロッド状に変化します。硬くて脆いSiが板状に材料中にあると、応力集中源となるので伸びは小さくなります。一方でロッド状になると応力集中し難くなるため、伸びが大きくなります。
画像は放射光施設SPring-8を用いて撮像した共晶Siの3次元画像です。画像左(スマホでは上側)は非改良ですので板状のSiがみえます。画像右(スマホでは下側)では、Siはロッド状になっており、改良組織を呈しています。

共晶Siの非改良3Dミクロ組織

共晶Siの改良3Dミクロ組織

論文にまとめていますので、ご興味あればご確認ください。

鋳造性の向上は、準固相線の低下によってもたらされます。「準固相」とは、固相の増加に伴い変形ができなくなる状態をいいます。準固相状態になると、固相(α-Al)間の液相の移動が難しくなりますので溶湯補給ができなくなります。つまり準固相線の低下は、溶湯補給の時間を延長させることになり、鋳造性が向上すると考えられています。ただし、目的とする特性は製品によって異なることから、必ずしもすべての製品において鋳造性が向上するとは言えません。

2. Sr添加したAC4CH合金のミクロ組織

改良処理によるミクロ組織の変化をみてみましょう。以下のミクロ組織は、AC4CH合金のミクロ組織になります。Sr添加量を0ppm(非改良)、20ppm(パーシャル改良)、そして100ppm(改良)にふっています。共晶Siの形状がかなり違うことがわかるでしょうか。
非改良組織は、平面では針状にみえますが、3次元的には板状になります。改良組織は、2次元的には粒状ないし針状にみえるかと思いますが、実際にはロッド状になっています。パーシャル改良は非改良と改良の中間となります。
改良元素の多寡により、共晶Siの形態が変化することを理解いただけたと思います。ppmオーダーの添加元素がミクロ組織を支配する。とても興味深い現象です。

AC4CH合金の非改良組織

AC4CH合金のパーシャル改良組織

AC4CH合金の改良組織

工業的には、改良元素の添加にはコストがかかります。これに加え、改良元素を多くいれると品質に弊害が生じることもあります。したがって、改良元素の添加量は極力制限するべきです。しかし、改良元素の添加量削減をすると、改良不足が生じる可能性があるため、なかなか実行に移すことが難しいのも事実でしょう。改良元素の減耗の問題も無視できません。総合的に考えて添加量を決める必要がありますのでご注意ください。

AC4CHの材質と特徴の詳細は以下リンクをご覧ください。

3. Sr添加されて使われる鋳造製品

靭性を求められるアルミニウム合金鋳物にはSrが添加されます。例えば、自動車用アルミニウム合金ホイール、自動車用フレームがその代表でしょう。自動車アルミニウム合金ホイールは、AC4CH合金を用いて重力鋳造ないし低圧鋳造で製造されます。自動車用フレームには多くの実績はみられませんが、Audi社のスペースフレームがその代表です。これはSilafont-36合金を用いて高真空ダイカストで製造されます。その他、テスラの車体部品も同様にSr添加が施されています。これに関しては以下の記事にまとめていますので、ご興味あればご確認ください。

4. 広義の改良処理

Al-Si合金鋳物の場合、「改良処理」といえば「共晶Siの改良処理」になります。したがって、本サイトでは共晶Siの改良処理について取り上げています。しかし、鋳造を生業としていると他にも改良処理を聞くことがあります。広い意味での改良処理には以下のものがあります。簡単に説明します。

  • 過共晶合金(ADC14、B390など)の初晶Si微細化
  • 初晶α-Al相の微細化

初晶Siの微細化にはP添加を、初晶α-Al相の微細化にはTiB2を添加されます。これらは共晶Siの改良処理とメカニズムが異なります。
P添加による初晶Siの微細化については、以下のページにて初晶Siの微細化を説明しています。ぜひご覧ください。

5. まとめ

Al-Si合金鋳物の共晶Siの改良処理に関して、目的、AC4CH合金における実例、実際に使われている製品について説明しました。改良処理は、機械的性質が必要なアルミニウム合金鋳物には必須の工程といえます。
自動車におけるカーボンニュートラルの達成には、さらなる軽量化が求められます。鋳造工法は形状剛性を確保しやすいので、アルミ置換による軽量化は今後もすすむと予想されます。車体部品にアルミニウム合金鋳物を適用するには、改良処理が必須といえますので、関係する方は改良処理を覚えていただけるとよいかと思います。
詳細について、ご関心がありましたらお問い合わせください。

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