2023.02.10
AC4CHの材質と特徴
概要
AC4CHとは、各種特性に優れた鋳造用アルミニウム合金です。良好な鋳造性、比較的高い強度、高靭性、そして耐食性をあわせもつバランスの良い合金です。その優れた特性から、自動車のアルミホイールをはじめ、自動車のフレームのような強度部材に適用されています。AC4CHは「鋳造用アルミニウム合金のお手本」と言えるでしょう。本記事では、そんなAC4CHの材質と特徴について詳しく紹介します。
1. AC4CHの化学成分と材質
AC4CHはJIS規格で規定される合金です。下表に化学成分を示します1)。比較のためにAC4C、AC4B、AC2Bの化学成分を併記しています。
化学成分, 質量% | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合金名 | Cu | Si | Mg | Zn | Fe | Mn | Ni | Ti | Pb | Sn | Cr | other |
AC4CH | ≦0.10 | 6.5 ~7.5 |
0.25 ~0.45 |
≦0.10 | ≦0.20 | ≦0.10 | ≦0.05 | ≦0.20 | ≦0.05 | ≦0.05 | ≦0.05 | other |
AC4C | ≦0.20 | 6.5 ~7.5 |
0.20 ~0.40 |
≦0.3 | ≦0.5 | ≦0.6 | ≦0.05 | ≦0.20 | ≦0.05 | ≦0.05 | ≦0.05 | other |
AC4B | 2.0 ~4.0 |
7.0 ~10.0 |
≦0.50 | ≦1.0 | ≦1.0 | ≦0.50 | ≦0.35 | ≦0.20 | ≦0.20 | ≦0.10 | ≦0.20 | other |
AC2B | 2.0 ~4.0 |
5.0 ~7.0 |
≦0.50 | ≦1.0 | ≦1.0 | ≦0.50 | ≦0.35 | ≦0.20 | ≦0.20 | ≦0.10 | ≦0.20 | other |
AC4CHはAC4Cのプレミアム合金です。AC4CHとAC4Cの違いは主にはFeの含有量になります。AC4CHは靭性を向上させるためにFeを0.20%以下に制限しています。
通常4桁の合金番号がAC4CHは5桁になっています。なぜ"H"がついたのか定かではありませんが、"High purity(高純度)"のHがついたのかな、とその昔考えていたのですが、詳細はわかっていません。もし経緯がわかれば教えていただけると幸いです。
ちなみにAC4CHは海外ではA356と呼ばれています。輸入材を扱う鋳造メーカーは、AC4CHと呼ばずにA356という場合があります。「356」はAC4Cですのでご注意ください。
AC4Bはダイカスト合金であるADC12の鋳造用合金と考えていただいてOKです。AC2BはAC4BよりもSiが少ない合金になります。AC4CHと比較して、合金成分の範囲が広く設定されていることがわかるかと思います。
AC4CHは鋳造用アルミニウム合金のお手本、基礎となる材料です。そのため鋳造用材料を学ぶには、まずはAC4CHから始められることをおすすめします。AC4CHは合金成分がシンプルで、AC4B、ADC12よりも理解がしやすいです。鋳造用アルミニウム合金の考え方は、以下リンクを確認いただけると理解いただけると思います。
2. AC4CHの用途
AC4CHの用途はずばり構造用部品です。
信頼性が必要な部品にAC4CHは適用されています。例えば以下のような部品に適用されています。
- ホイール
- クロスメンバー
- サブフレーム
いずれの部品も応力がそれなりにかかるような部品です。そして、壊れてしまうと人命に関わる重要な保安部品といえます。こうした部品には経験的、そして破壊力学的にもAC4CHのような靭性が高い材料が採用されます。単純な引張強さ、疲労強度では語れない難しさがここにはあります。
下の写真は当社の社有車のアルミホイールです。15年程度乗っていますが、割れはもちろんのこと、腐食もなく良好です。信頼性でいえば、間違いなくAC4CHをおすすめします。
AC4CHで作られたホイールの中には、フローフォーミングという塑性流動をともなう加工をされることがあります。下の画像はフローフォーミングされたAC4CHのミクロ組織になります。AC4CHは靭性に優れるため、塑性加工を施しても割れずに加工することが可能です。AC2B、AC4Bも条件によってはできないこともありませんが、量産で使うにはロバスト性が低くなります。材質が優れるというのは後工程にも効いてきます。
3. AC4CHの物理的性質及び機械的性質
AC4CHの物理的性質を以下表に記載します2)。参考にAC4C、AC4B、AC2Bの数値も記載します。
合金名 | 密度 Mg/m3 |
液相線 ℃ |
固相線 ℃ |
線膨張係数 20℃ x10-6/℃ |
線膨張係数 20~200℃ x10-6/℃ |
線膨張係数 30~300℃ x10-6/℃ |
熱伝導率 W/m・℃ |
比熱 J.kg・℃ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AC4CH | 2.64 | 610 | 555 | 21.5 | 22.5 | 23.5 | 159 | 963 |
AC4C | 2.64 | 610 | 555 | 21.5 | 22.5 | 23.5 | 159 | 963 |
AC4B | 2.77 | 590 | 520 | 21.0 | 22.0 | 23.0 | 96 | 963 |
AC2B | 2.78 | 615 | 520 | 21.5 | 23.0 | 23.5 | 109 | 963 |
カーボンニュートラル、それにともなうEV化、とくると気になる特性は熱伝導率でしょうか。AC4C系の合金は、AC4B系の合金と比較して熱伝導率が良好です。また、AC4C系の合金は耐食性もよいため、酸化による遮熱が少ないというメリットがあります。そのため、放熱性を求める製品にはAC4C系の合金はよい選択になるように思います。
以下表にAC4CH、AC4C、AC4B、AC2Bの機械的性質を記載します2)。いずれも金型鋳造品のデータになります。
熱処理の有無で機械的性質がかなり異なりますので、FとT6を各材料毎にのせています。熱処理を施さないFと比較して、T6処理材は強度があがることがわかるかと思います。さらにはAC4CHはT6処理によって伸びも向上しています。
アルミニウム合金鋳物の熱処理に関して、表の下部のリンクに詳しく記載していますのでご興味あればご覧ください。
合金名 | 耐力 MPa |
引張強さ MPa |
伸び % |
硬さ HB |
---|---|---|---|---|
AC4CH-F | 95 | 160 | 10.7 | 55 |
AC4CH-T6 | 260 | 260 | 16.8 | 70 |
AC4C-F | 105 | 200 | 8.2 | 60 |
AC4C-T6 | 225 | 285 | 7.3 | 95 |
AC4B-F | 180 | 270 | 2.2 | 84 |
AC4B-T6 | 205 | 345 | 1.6 | 106 |
AC2B-F | 85 | 220 | 0.8 | 61 |
AC2B-T6 | 200 | 305 | 0.9 | 81 |
AC2B、AC4Bの耐力、引張強さが高くて
「いいじゃん!」
と思われるかもしれませんが、問題は耐力ではありません。伸びです。硬くて脆い材料は構造材料とは言えません。ガラスだけで構造躯体は作れないことと同じです。ご注意ください。
4. AC4CHのミクロ組織と材質の関係
ミクロ組織は材質、つまり材料の特性を決定します。そのため材料エンジニアはこのミクロ組織をなんとかよくしようと考えるわけです。ちょっと難しいかもしれません。だけどなるべく優しく解説することをお約束します。AC4CHのミクロ組織を非改良、パーシャル改良、改良と3つのミクロ組織をみてみましょう。
非改良組織において、濃いグレーが針状になっていることがわかるかと思います。こちらは共晶Siと呼ばれるものなんですが、3次元的には板状になっています。応力集中源となるため、好ましくありません。したがってAC4CHは基本的にこのミクロ組織にしません。
改良組織をみてください。AC4CHは一般的にこの状態となるように作られます。濃いグレーの部分が細かくてわかり難いかもしれませんが、これは3次元的にはロッド状です。応力集中が生じ難いため、伸びがでます。鋳造メーカーはこれを目指してつくっています。
パーシャル改良とは、非改良と改良の中間です。濃いグレーの部分が少々粗いことを確認できるでしょうか。非改良よりは悪くはありませんが、改良よりは良くありません。改良を目指してください。
AC4CHは共晶改良が施されることが多くなっています。最近ではSrによる共晶改良がよく使われています。
共晶Siの組織制御に関して、以下リンクに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
5. まとめ
AC4CH(A356)の材質と特徴について、化学成分、用途、物理的性質と機械的性質、そして改良処理と熱処理と少々マニアックに説明しました。
AC4CHを簡単に言うなれば、
キングオブ鋳造用アルミニウム合金
です。
中程度の強度、高い伸び及び靭性、高い耐食性、そして良好な鋳造性。まずはこの合金を理解いただくことをおすすめします。
言葉と画像だけではなかなか伝わらない部分があるかと思います。もしご興味ありましたら、お問い合わせください。当社がお役に立てれば幸いです。
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お問い合わせはこちらより承っております。
出典
1) JIS H5202:2010
2) 軽金属学会:アルミニウムの組織と性質(1991年)
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