2024.01.31
Silafont-36の材質と特徴
概要
Silafont-36とは、アルミニムダイカストに使用されるAl-10%Si-Mn-Mg系の合金です。Audi A8を皮切りに、軽量化のために様々な自動車メーカーに採用されています。高い鋳造性と高い靭性を併せ持つ構造用アルミニウム合金です。本記事では、Silafont-36の材質と特徴について詳しく紹介します。
取り扱う部品の化学成分、製品写真、物理的性質、機械的性質のデータはRheinfelden社のカタログから引用しています1)。かなり詳細に記述されていますので、おもしろいですよ。
1. Silafont-36の化学成分と材質
Silafont-36はRheifelden社の開発合金です。日本では日軽エムシーアルミ株式会社がライセンス販売しています。A365という材料規格で呼ばれることもあります。下表に化学成分を示します。比較のためにADC12合金の化学成分を併記します。
合金名 | Cu | Si | Mg | Zn | Fe | Mn | Ni | Sn | Pb | Ti | Sr | P | other |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Silafont-36 | ≦0.03 | 9.5 ~11.5 |
0.1 ~0.5 |
≦0.07 | ≦0.15 | 0.5 ~0.8 |
- | - | - | 0.04 ~0.15 |
0.010 ~0.025 |
≦0.001 | ≦0.10 |
A365.0 | ≦0.02 | 9.5 ~11.5 |
0.10 ~0.6 |
≦0.03 | 0.15~0.25 | 0.30 ~0.6 |
- | - | - | ≦0.10 | - | - | ≦0.15 |
JIS ADC12 | 1.5 ~3.5 |
9.6 ~12.0 |
≦0.3 | ≦1.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | - | - | - |
Silafont-36は、ADC12と同様のAl-Si共晶合金です。しかしながら、これら合金は明確に異なります。スクラップベースで作られるADC12に対し、Silafont-36は合金成分が厳しく制限されているプレミアム合金です。用途については後述しますが、Silafont-36は応力が積極的にかかる部品への適用を考えて開発されています。この材料のポイントは3つです。
- 鋳造材料であること
- 優れた靭性をもつこと
- Mg量及び熱処理によって材質変化が容易なこと
鋳造材料は共晶合金が基本となります。Silafont-36も例に漏れず、Al-Siの共晶合金として材料設計されています。鋳造用アルミニウム合金の考え方は、以下リンクを確認いただけると理解いただけると思います。
靭性の確保には共晶Siの組織制御が必要になります。Silafont-36は、Srによって共晶Siを微細化させられるように材料設計されています。
共晶Siの組織制御に関して、以下リンクに詳しく解説していますので、ご確認いただけると幸いです。
Silafont-36はMg量と熱処理によって材質を簡単に変化させることができます。客先要求に応えられる材料設計の懐の広さが実はこの材料の特徴です。
アルミニウム合金鋳物の熱処理に関して、ご興味あれば以下リンクをご確認ください。
2. Silafont-36の用途
ラインフェルデン社のカタログにSilafont-36の適用事例が載っているので転載します(適用事例が多いので抜粋しています)。日本国内でも数は多くありませんが使用されています。
- クロスメンバー(Porsche ケイマン)
- クロスメンバー(Fiat)
- エンジンクレードル(Daimler)
- フロントセクションフレーム(BMW 3シリーズカブリオレ)
- ステアリングコラム(Dimler)
- テールゲートフレーム(BMW)
- フレームサイドレール(Alfa)
- ロールオーバーハウジング(Opel)
適用製品は構造用部品に使われていることがわかります。強度及び靭性が必要な部分にSilafont-36は使われているといえます。
Silafont-36と類似した合金にAlcoa社のC611 EZCastがあります。こちらの合金も自動車のボディ向けに開発された高靭性アルミニウム合金です。Silafont-36に興味がある方には刺さる合金ですので、ぜひご覧ください。
本記事ではSilafont-36の比較のためにADC12をあげています。日本で多用されるADC12のような汎用材料は、積極的に応力を受けるような設計はされていません(できません)。この考え方もおもしろいので、ご興味あれば以下リンクをご覧いただければ幸いです。
3. Silafont-36の物理的性質及び機械的性質
Silafont-36の物理的性質を以下表に記載します。参考にADC12の数値も記載します。
合金名 | 密度 Mg/m3 |
液相線 ℃ |
固相線 ℃ |
線膨張係数 20℃ x10-6/℃ |
線膨張係数 20~200℃ x10-6/℃ |
線膨張係数 30~300℃ x10-6/℃ |
熱伝導率 W/m・℃ |
縦弾性率 GPa |
収縮率 % |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Silafont-36 | 2.64 | 550~590 | - | - | 21.0 | - | 150(O材) | 74-83 | 0.4~0.6 |
ADC12 | 2.70 | 580 | 515 | - | 21.0 | - | 92 | - | - |
Silafont-36はAl-Si共晶型の合金ですので、ADC12からの変更は比較的容易です。材料成分と清浄度には気をつけなければいけませんが、工程設計ができれば問題なく鋳造ができます。
Silafont-36の熱伝導率の数値はO材(焼きなまし)ですので、かなり良い数値が記載されています。F材ですともっと低くなります。材料成分としては、ADC12よりも熱伝導率はよくなるはずです。
伸び尺はADC12と比較しても大きく変わりません。
以下表にSilafont-36とADC12の代表的な機械的性質を記載します。Silafont-36の機械的性質はADC12と比較すると良好です。
F材で比較するとADC12の方が耐力が高い!
と思われるかもしれませんが、問題は耐力ではありません。伸びです。F材で伸び11.4%は立派なものです。T5をいれて強度をあげても伸びが8.1%あります。カタログスペックといえばそれまでですが、良い状態で鋳造してこれがでれば設計者としては魅力的な材料、工法とうつることでしょう。
合金名 | 耐力 MPa |
引張強さ MPa |
伸び % |
硬さ |
---|---|---|---|---|
Silafont-36-F | 123 | 265 | 11.4 | - |
Silafont-36-T5 | 211 | 313 | 8.1 | - |
ADC12-F | 157 | 228 | 1.4 | - |
4. Silafont-36のミクロ組織と材質の関係
化学成分、工法からミクロ組織は作られ、材質が決定します。この少々難しいミクロ組織をなるべく優しく解説します。ではSilafont-36のミクロ組織をみてみましょう。
工法はダイカスト、材料はSilafont-36、改良処理ありです。α-AlデンドライトとAl-Si共晶の2相のミクロ組織になっています。ダイカスト特有のα-Alの粒状化、微細化された共晶Siがみられます。この共晶の細かさが伸び及び靭性をあげる要因になります。不純物が入って粗大になると一気に伸びは悪化しますので、不純物管理が重要です。
Silafont-36は熱処理型合金になります。熱処理をしなくても優れていますが、設計的にはT5ないしT6を入れたくなるように思います。T5は一般的なダイカストでも対応可能ですが、T6処理をする場合はダイカストに工夫が必要となります。
5. 製造方法
Rheinfeldenのカタログは、すごくおもしろいです。詳しい製造ノウハウも包み隠さず記載されていますので、読み解いていただけるとよいかと思います。
ただ、溶解、改良、鋳造、熱処理までをスルーで見られるエンジニアは少ないと思います。そうした部分において、当社がお手伝いできればうれしい限りです。ご興味ありましたら、お問い合わせいただけると幸いです。
Contact
鋳造に関する問題、課題、お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらより承っております。
Articles
2023.04.23
テスラのダイカスト技術メガキャスティング【ギガプレス】
テスラの新しいダイカスト技術ギガプレス。イタリアのイドラグループがダイカストマシンを製造し、テスラが車体用フレームを製造されています。ギガプレスでつくられるもの、メリット・デメリットについて、詳しく紹介します。
2023.03.12
テスラのダイカスト用アルミニウム合金
テスラのギガプレスで使われている材料について、鋳造エンジニアの視点で解説します。テスラモデルYのアンダーボディは、アルミニウム合金でできています。特許明細、実物の成分分析結果をベースに設計的な考え方まで詳述します。
2023.05.02
アルミニウム合金鋳物の熱処理【T5/T6】
アルミニウム合金鋳物には、機械的性質の向上のために熱処理をされることがあります。T5、T6、時効、溶体化と小難しいアルミニウム合金鋳物の熱処理について、その目的、強化メカニズム、今後の熱処理技術などを詳述します。