2023.08.16

C611 EZCastの材質と特徴

概要

C611 EZCastは、Al-Si-Mg-Mn系のAlcoa(アルコア)社の開発合金です。メガキャスティング、ギガキャスティングに適した合金とされています。高い鋳造性と高い靭性を併せ持つ構造用アルミニウム合金といえるでしょう。本記事では、C611 EZCastの材質と特徴について紹介します。
取り扱う部品の化学成分、物理的性質、機械的性質のデータはAlcoa社のカタログから引用しています1)

C611 EZCastを用いて鋳造されたダイカスト

1. C611 EZCastの化学成分と材質

C611 EZCastはAlcoa社の開発合金です。Alcoa社は、日本ではインゴットメーカーとして馴染みがないかもしれませんが超メジャーな会社です。
下表にC611 EZCastの化学成分を示します。比較のためにテスラモデルY(Patent Alloy 2)2)、Silafont-363)の化学成分を併記します。

合金名 Cu Si Mg Zn Fe Mn Ti Sr P other
C611 EZCast - 6.0
~9.0
0.15
~0.30
- ≦0.15 0.4
~0.8
≦0.10 0.01
~0.03
- ≦0.15
C370 EZCast - 6.0
~9.0
0.15
~0.80
- ≦0.20 0.1
~0.8
≦0.20 0.025 - ≦0.15
Tesla Model Y
Patent
0.3
~0.8
6
~11
0.15
~0.4
- ≦0.5 0.35
~0.8
≦0.15 0.015
~0.05
- ≦0.15
Silafont-36 ≦0.03 9.5
~11.5
0.1
~0.5
≦0.07 ≦0.15 0.5
~0.8
0.04
~0.15
0.010
~0.025
≦0.001 ≦0.10

C611とC370を比較すると、プレミアムな合金は化学組成からみるとC611です。微量元素の記述がないので詳細はわかりませんが、新塊(電解精錬)ベースの合金だと思われます。

テスラモデルYの合金と比較すると、設計思想が異なることがわかります。テスラモデルYの合金は、強度向上とリサイクル性の視点からCuの含有とFe量の許容が特徴です。そういった意味からC611の方がプレミアム合金と言えそうです。実際、GIFA2023のAlcoaブースでは、営業担当者は以下のように言ってました。

マテリアルデザイン「テスラの合金ってAlcoaさんが製造しているの?」
Alcoa社担当「いや、作ってないよ。テスラの合金よりもEZCastの方がいいぜ。」
マテリアルデザイン「同意するよ。C611の化学成分はプレミアムだよね。」
Alcoa社担当「そうそう、C611はNADCAでなんちゃらかんちゃら・・・」

この後、担当者の方にいろいろ教えてもらったのですが、半分以上聞き取れず・・・英語を勉強しておかないといけませんね。テスラモデルYの材料について、以下のリンクにまとめてますのでご興味あればご確認ください。

日本人には馴染み深い(といっても国内でほとんど普及していません)Silafont-36と比較すると、Si量がC611の方が少ないようです。ただ、構造材料としての基本的な考え方はほとんど同じです。私個人としては亜共晶側の組成が好きなので、C611は良い合金だと思ってます。どちらも良い合金ですけどね。ぜひ実物を調べてみたいものです。
Silafont-36について、以下リンクにまとめてあります。ぜひご一読ください。

さて、C611 EZCastは応力が積極的にかかる部品への適用を考えて開発されています。そしてメガキャスティング、ギガキャスティングを意識しているようです。この材料のポイントは3つです。

  • 鋳造材料であること
  • 優れた靭性、曲げ性をもつこと
  • そこそこの強度をもつこと

どんな材料も安定した生産ができなければ意味がありません。そして自動車の構造部材に適用される材料として、優れた機械的性質、特に靭性を意識した材料設計が必要です。メガキャスティング向けに開発されたとありますが、メガキャスティングを抜きにしても良い材料だと思います。さすがAlcoaです。

2. C611 EZCastの物理的性質及び機械的性質

C611 EZCastの物理的性質を以下表に記載します。参考にSilafont-36、ADC12の数値も記載します。

合金名 密度
Mg/m3
液相線
固相線
線膨張係数
20℃
x10-6/℃
線膨張係数
20~200℃
x10-6/℃
線膨張係数
30~300℃
x10-6/℃
熱伝導率
W/m・℃
縦弾性率
GPa
収縮率
%
C611 EZCast 2.68 554~620 - - - 21.5 135~170 70-74 -
Silafont-36 2.64 550~590 - - 21.0 - 150(O材) 74-83 0.4~0.6
ADC12 2.70 580 515 - 21.0 - 92 - -

C611 EZCastはAl-Si共晶型の合金ですので、鋳造性は良好です。Silafont-36同様に材料成分と清浄度には気をつけなければいけません。工程設計ができれば問題なく鋳造ができます。

C611 EZCastの熱伝導率の数値はSilafont-36同様とほぼ同等です。これら合金は、熱伝導率は材料成分からみてもADC12より良好です。

以下表にC611 EZCastとADC12の代表的な機械的性質を記載します。

合金名 耐力
MPa
引張強さ
MPa
伸び
%
硬さ
C611 EZCast-F 123 268 16.2 -
Silafont-36-F 123 265 11.4 -
ADC12-F 157 228 1.4 -

C611 EZCastの機械的性質はADC12と比較すると良好です。
F材で比較するとADC12の方が耐力が高い!
と思われるかもしれませんが、問題は耐力ではありません。伸びです。F材で伸び16.2%は脅威的です。この数値は保証値ではありませんが、それでも立派な値です。カタログスペックといえばそれまでですが、良い状態で鋳造してこれがでれば設計者としては魅力的な材料、工法とうつることでしょう。機械的特性としてはSilafont-36と似ています。

3. C611 EZCastの適用例

C611 EZCastの適用事例をGIFAのアルコアブースで紹介されていました。大型部品が2つ並び、なかなか見応えがあるブースでした。

こちらは中国のEVメーカーであるNIOのリアフロアフレームです。Alcoa社のプレスリリースにも紹介されています4)
展伸材を組み合わせた設計では、15以上の異なるパーツを組み立てる必要があったそうです。これはメガキャスティングにより解決されています。製造サイクルタイムは20%削減され、機械的性質は15%向上したとあります。展伸材の方が機械的性質はいいような気がしますが、プレスリリース上はそのようになっています。熱処理が不要となったことでCO2は35.5kg-CO2削減されたようです。

  • メーカー:NIO
  • 名称:リアフロアフレーム
  • サイズ:1,315×1,612×754mm
  • 重量:50kg
  • 一般肉厚:3mm

C611 EZCastで作られたNIO社製リアフロアフレーム

こちらは中国のEVメーカーであるLi Auto(理想汽車)のリアフロアフレームです。
鋼を組み合わせた設計では、70以上の異なるパーツを組み立てる必要がありましたが、ひとつのダイカストで形成できるようになったそうです(テスラモデルYの文言とほぼ同じですね・・・)。42.4%の軽量化効果に加え、ボディの開発サイクルが大幅に短縮されたことがポイントだそうです。

  • メーカー:Li Auto(理想汽車)
  • 名称:リアフロアフレーム
  • サイズ:1,580×1,570×560mm
  • 重量:40.8kg
  • 最小肉厚:2.5mm

C611 EZCastで作られたLi Auto社製リアフロアフレーム

4. まとめ

C611 EZCastについて材料成分、材質、適用例を考えてみました。

C611はメガキャスティング用に開発され、EVのフレーム部品に採用されているようです。Al-Si-Mg-Mn系の合金であり、鋳造性が良好なこと、優れた靭性をもつこと、そして適度な機械的性質をもたせていることが特徴です。おそらく新塊ベースの合金でつくられており、プレミアムな部類の合金と言えるでしょう。メガキャスティング用と言われていますが、特性がよいのでその他の部品につかっても問題ない合金です。
日本において、こうした材料が適切に使われるようになることを祈ってます。

マテリアルデザインイメージ

マテリアルデザインにできること
鋳造不良の原因分析
仕入先支援
ベンチマーク調査
⼯程設計⽀援
鋳造教育
鋳造設備、副資材の販売

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