2023.01.20

Magsimal-59の材質と特徴

概要

Magsimal-59とは、アルミニムダイカストに使用されるAl-Mg2Si型の共晶合金です。このアルミニウム材料は、熱処理をしなくても強度や靭性が高いことが特徴です。欧州自動車メーカーの部品への適用がひろがっており、注目度の高い材料です。本記事では、Magsimal-59の材質と特徴について詳しく紹介します。
本記事で取り扱う部品の化学成分、製品写真、物理的性質、機械的性質のデータはRheinfelden社のカタログから引用しています1)。詳細に記述されていますので、そちらもご確認いただけるとよいかと思います。

出典
1) Rheinfelden web site Magsimal-59

1. Magsimal-59の化学成分と材質

Magsimal-59はRheifelden社の開発合金です。下表に化学成分を示します。比較のためにADC12合金の化学成分を併記します。

合金名 Cu Si Mg Zn Fe Mn Ni Sn Pb Ti Be other
Magsimal-59 ≦0.03 1.8~2.6 5.0~6.0 ≦0.07 ≦0.2 0.5~0.8 - - - - ≦0.004 ≦0.2
JIS ADC12 1.5~3.5 9.6~12.0 ≦0.3 ≦1.0 ≦1.3 ≦0.5 ≦0.5 ≦0.2 ≦0.2 ≦0.30 - -

Magsimal-59は、Al-5%Mg-2%Si系の共晶合金です。簡単に言うと、熱処理をしなくても強度と靭性がそこそこでる鋳造材料です。この材料のポイントは2つです。

  • 鋳造材料であること
  • 熱処理しなくても機械的性質に優れること

鋳造材料は基本的に共晶合金です。Magsimal-59も例に漏れず、Al-Mg2Siの共晶合金として材料設計されています。稀に展伸材(固溶体型合金)を鋳造したいと言われる場合がありますが、これは鋳造にとってなかなかハードです。鋳造用アルミニウム合金の考え方は、以下リンクを確認いただけるとうれしいです。

Magsimal-59は熱処理しなくてもOKです。何をもってOKというのが難しいのですが、強度と靭性がそこそこでる材質といえます。そのため、昔から注目されてはいました。2020年に日本政府から「2050年カーボンニュートラル」と宣言されて以降、より脚光を浴びています。
「既存のAl-Si系のアルミニウム合金からAl-Mg2Si系に変えたらいいじゃん」 といえばそれまでなのですが、製造上の特性が結構異なるため二の足を踏んでいるメーカーさんが多いように思います。というのもAl-Mg系は従来の溶湯管理では通用しないこと、これに付随して思ったよりも機械的性質がでないことが挙げられます。

Magsimal-59のインゴット

2. Magsimal-59の用途

日本国内でMagsimal-59の適用された製品をみたことがないのですが、ラインフェルデン社のカタログに適用事例が載っているので転載します(適用事例が多いので抜粋しています)。

  • トランスミッションクロスレイル(Porsche)
  • スタビライザーロッドブラケット(BMW 5シリーズ)
  • サスペンションストラットブラケット(Porsche カイエン)
  • ギアボックスクロスビーム(Daimler)
  • フロントサスペンションストラットサポート(BMW 5シリーズ、6シリーズ)
  • ステアリングホイールフレーム(VW New Beetle)
  • クロスメンバー(BMW)

適用製品から構造用部品に使われている傾向が高いことがわかります。言い換えれば強度及び靭性が必要な部分にMagsimal-59は使われています。

Magsimal-59で作られたBMW5シリーズのサポート部品

Magsimal-59と使われ方が異なる材料といえば、ADC12でしょう。日本で多用されるADC12のような汎用材料は、積極的に応力を受けるような設計はされていません(できません)。この考え方もおもしろいので、ご興味あれば以下リンクをご覧ください。

3. Magsimal-59の物理的性質及び機械的性質

Magsimal-59の物理的性質を以下表に記載します。参考にADC12の数値も記載しておきます。

合金名 密度
Mg/m3
液相線
固相線
線膨張係数
20℃
x10-6/℃
線膨張係数
20~200℃
x10-6/℃
線膨張係数
30~300℃
x10-6/℃
熱伝導率
W/m・℃
縦弾性率
kN/mm2
収縮率
%
Magsimal-59 2.65 580~618 - - 24.0 - 110 68-75 0.6~1.1
ADC12 2.70 580 515 - 21.0 - 92 - -

ADC12と比較すると、Magsimal-59は線膨張係数がやや高いことが気になる点でしょうか。熱伝導率はADC12よりもやや高いですが、これは良いスペックとはいえません。伸び尺はADC12と比較するとやや大きいので、金型設計時のこれまでよりも大きくとる必要があるでしょう。

表にMagsimal-59とADC12の代表的な機械的性質を記載します。Magsimal-59の機械的性質はADC12と比較するとかなり良好です。特に伸び12%以上はなかなかでません。カタログスペックといえばそれまでですが、良い状態で鋳造してこれがでれば設計者としては魅力的な材料、工法とうつることでしょう。

合金名 耐力
MPa
引張強さ
MPa
伸び
%
Magsimal-59 160~220
t=2~4mm
310~340
t=2~4mm
12~18
t=2~4mm
ADC12 157 228 1.4

4. Magsimal-59のミクロ組織と材質の関係

化学成分、工法から製品は形成され、材質はミクロ組織から決定されます。小難しいことをさらなるべく優しく、解説します。ではMagsimal-59のミクロ組織をみてみましょう。
舟金型に鋳込んだAl-5Mg2Si合金のミクロ組織を以下に示します。α-AlデンドライトとAl-Mg2Si共晶の2相のミクロ組織になっています。冷却速度はダイカストよりも遅いのですが、共晶がかなり細かくなっています。この共晶の細かさが伸び及び靭性をあげる要因になります。不純物が入って粗大になると一気に伸びは悪化しますので、不純物管理が重要です。

Magsimal-59の材質とミクロ組織

次いで析出組織を以下に示します。β”あたりが析出しています。β”ってなに?ってつっこまれそうですが、Mg2Siのようなもの、という認識でひとまずOKです。共晶の成分自体がα-Al相の強化元素になります。Magsimal-59は非熱処理で十分な強度を確保できる理由はこれらMgとSiのおかげです。
ちなみに「非熱処理型合金」は熱処理を必要としない合金のことをさします。そういった面ではMagsimal-59は非熱処理型合金といえますが、熱処理をするとさらに強度があがる「熱処理型合金」でもあります。ややこしいので「非熱処理型合金」と括られていますが、材質の伸び代をもった優れた材料といえます。

Magsimal-59の析出組織

5. 製造方法

カタログを読み込みますと詳しく製造方法が書かれています。おもしろいのは、「鋳造」よりも「溶解」のセクションの方が長いことです。
これの意味するところは、溶解工程の工程設計が難しい、ということになります。そういったところを当社がお手伝いできればうれしい限りです。ご興味ありましたら、お問い合わせいただけると幸いです。

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