2023.07.18
ギガプレスに付帯する溶解保持システム
概要
テスラのギガプレスに付帯する溶解保持システムに関して、テスラ社公式YouTubeから読みとってみます1)。溶解炉、保持炉、移湯、注湯用保持炉など、あまり陽に当たらず3Kイメージがありますが極めて重要な工程です。ぜひ最後までご覧ください。
YouTubeの52秒あたりから溶解工程になります。この動画はクリエイティブコモンズになっていますが、画像の改変は許されていません。そのため動画を静止画にさせていただき、それを解説します。
1. ギガプレスの溶解保持システム
ギガプレスも気になりますが、溶解設備関係が気になります。
モデルYアンダーボディの素材重量は29.4kgとのことですので、それなりの溶解能力がないと連続生産できません2)。 Tesla社のYouTubeをみる限り、以下のような構成になっています(写真の右側です)1)。
- 溶解
- 保持
- 移湯
- 保持&注湯(Dosing Furnace)
Dosing Furnaceというのが日本語訳にないのですが、日本の鋳造エンジニアにはウェストマット的な炉というと伝わりやすいかもしれません。保持炉に注湯機能がついた閉じた炉です。
保持炉横にインゴットが置いてあることがわかります。通路にはインゴットケースもみえます。
2. ギガプレスの溶解炉
溶解炉、保持炉、そして注湯機はSTØTEK社製のようです。
“Ø”って文字があるんですね。デンマーク語、ノルウェー語で使われるようです。
ちなみにBOØWYの“Ø”は記号らしいのでこれとは違います。なんかカッコいいと思う私はおっさんなんでしょうか。
さて、なぜか溶解炉の前扉が2枚も開いていますが、これはあきらかに撮影用でしょう。炎というか赤熱していたほうが映えますからね。
ここから都合よく見れるのが溶解温度の差です。左扉内は黄色、右扉内は赤色になっています。左の雰囲気はおそらく800℃を超えています。したがって、左側で溶解、右側が保持を担っていると考えられます1)。
溶解炉下に設置された受けに入ったドロスはドライに見えます。動画では溶湯を攪拌していますが、これはおそらくフリです。映えますもんね、溶解。
3. ギガプレスの保持炉
写真左側にみえる保持炉へ溶解炉で溶製した溶湯を入れるようです1)。
Wikipediaには脱ガス処理があるとされていたので4)、オレンジ色の装置が回転翼脱ガス装置(もしくは溶湯ポンプ?)でしょうか。動画からは詳細がわからないですが、いれるならこの工程かと推定します。
そして注湯用保持炉へ移湯します。トイというか何か連結したものが見えますのでおそらくここが移湯の経路でしょう。
4. ギガプレスの注湯用保持炉
こちらが注湯用保持炉(Dosing furnace)です1)。
写真はSTØTEK社のnewsサイトに掲載されていた写真の再掲です3)。このDTI15000は15tonの保持能力がある保持炉です。newsサイトには納入先は記載されていませんでしたが、形からしてこれがテスラに導入されたと思います。
GIFA2023のSTØTEK社ブースにおいて、担当者といろいろ話ができました。画像にあるようにSTØTEK社の保持炉がメガキャスティング、つまりギガプレスに使われています。担当者はテスラとはいいませんでしたが、「T」向けって言われていたのでテスラでしょう。一式いくらかきいたら20,000ユーロだそうです。思ったより安い・・・と思ったのですが、日本国内にもってくるとかなり高くなりそうです。
こうした注湯用保持炉は密閉されており、省エネ効果が高いことが特徴です。ただ、密閉式のデメリットでもある酸化物生成及び除去に課題があることも事実です。wikipediaによるとAr置換、SiCフィルタ導入とありましたので気をつかっていることも事実でしょう4)。
アンダーボディの実物を見ていないのでわかりませんが、もしかすると酸化物に苦しんでいるかもしれません。
5. まとめ
ギガプレスに付帯する溶解保持システムについて、テスラ社公式YouTubeから静止画ベースで解説してみました。実際に見聞きしたわけではないので確実とまではいきませんが、なんとなくご理解いただけたかと思います。
鋳造は「溶かす」「流す」「固める」とこれら3要素をすべて満足する必要があります。したがって、溶解、保持、移湯、注湯用保持炉などなど、製品の品質を決める溶解工程は極めて重要といえるでしょう。
出典
1) YouTube(Tesla) https://www.youtube.com/embed/7-4yOx1CnXE
2) 株式会社大紀アルミニウム工業所
3) STØTEK web news https://stotek.com/news/
4) Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Giga_Press
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