2023.02.05
ADC10とADC12の違い
概要
ADC10とADC12はいずれもAl-Si-Cu系のアルミニウム合金です。ADC10とADC12は化学成分が異なり、これにより機械的性質及び湯流れ性に違いがあります。現在、ADC10はADC12にほぼ置換され、日本ではほとんどみなくなりました。そんなほとんどみないADC10について、ADC12と比較しながら解説します。
1. ADC10とADC12の化学成分
ADC10はJISで規定されたアルミニウム合金です。JIS H 5302アルミニウム合金ダイカストにおいて、化学成分が規定されています1)。比較のため、ADC12の化学成分も記載します。
化学成分, 質量% | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合金名 | Cu | Si | Mg | Zn | Fe | Mn | Cr | Ni | Sn | Pb | Ti | Al |
ADC10 | 2.0~4.0 | 7.5~9.5 | ≦0.3 | ≦1.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
ADC12 | 1.5~3.5 | 9.6~12.0 | ≦0.3 | ≦1.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
表からわかるように、ADC10とADC12の化学成分の差異はSi量です(Cuも多少異なります)。ADC10の方がADC12よりもSi量が少なくなっています。ADC12のSi量は共晶組成付近(12.6%Si)であるため、渦巻き試験による湯流れはADC10よりも勝ります。
2. ADC10とADC12の機械的性質
ADC10とADC12の機械的性質を表に示します2)。耐力、引張強さともにわずかにADC10の方が高い値になっています。他の文献でもその傾向になっていますので、この関係は正しいといえるでしょう。これはCu量の影響!と言いたいところですが、Si量による影響かとマテリアルデザインでは考えています。ADC10はADC12よりもSi量が少ないということは、α-Alの比率が大きいということです。α-Al中にはCuやMgが固溶ないし析出しますので、その比率の差が強度の差としてでていると考えられます。
合金名 | 引張試験 | 硬さ試験 | ||
---|---|---|---|---|
耐力 MPa | 引張強さ MPa | 伸び % | HB | |
ADC10 | 160 | 320 | 3.5 | 83 |
ADC12 | 157 | 310 | 3.5 | 86 |
出典
2) 日本ダイカスト協会:DIE CASTING(1994)
3. ADC10の変遷
少し古いデータですが、各アルミニウム合金ダイカストの生産比率を下図に示します3)。
1986年には16.9%あったADC10ですが、2001年には0.5%と激減しています。これは材料種統一によるコストダウンからきていると思われます。日本鋳造工学会のwebサイトに以下のように記述されています。
日本では大多数の自動車メーカーがADC12合金を採用していたため、いつのまにかすべて ADC12合金に統一されてしまったようです。
4. 海外のADC10使用事情
ADC10はJIS規格ですので、海外では異なる規格で運用されます(日系の鋳造メーカー、インゴットメーカーがある場合は別です)。ADC10の類似の合金として、アメリカでは380.0、ドイツではGD-AlSi9Cu3、ISOではAl-Si8Cu3Feがあります。以下に各合金の化学成分を示します。
ちなみに欧州ではADC12はほとんど使われず、ADC10に近い成分のものがメインで使われています。どちらがおすすめかと聞かれれば、ADC10をおすすめします。
化学成分, 質量% | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合金名 | Cu | Si | Mg | Zn | Fe | Mn | Cr | Ni | Sn | Pb | Ti | Al |
ADC10 日本 |
2.0 ~4.0 |
7.5 ~9.5 |
≦0.3 | ≦1.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
380.0 アメリカ |
3.0 ~4.0 |
7.5 ~9.5 |
≦0.10 | ≦3.0 | ≦2.0 | ≦0.50 | - | ≦0.50 | ≦0.35 | - | - | 残部 |
GD-AlSi9Cu3 ドイツ |
2.0 ~3.5 |
8.0 ~11.0 |
0.1 ~0.5 |
≦1.2 | ≦1.2 | 0.1 ~0.5 |
- | ≦0.3 | ≦0.1 | ≦0.2 | ≦0.15 | 残部 |
Al-Si8Cu3Fe ISO |
2.5 ~4.0 |
7.5 ~9.5 |
≦0.3 | ≦1.2 | ≦1.3 | ≦0.6 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.3 | ≦0.2 | 残部 |
5. まとめ
ADC10とADC12の違いについて、化学成分、機械的性質を説明しました。
ADC10とADC12の違いはSi量の差になります。機械的性質はADC12よりもADC10の方が優れていますが、日本ではADC12がメインで使われています。おそらく湯流れの結果をもって、ADC12に材種統一されていったのでしょう。
一方、欧州ではADC10がメインで使われており、文化の違いを感じます。
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